[書評]学級経営10の原理・100の原則

おすすめ度:(プロの教員が著した教育の技術。教員のみならずひとに指示・指導するすべての社会人におすすめ)

教師は特殊な職業です。
日本の教育現場では、1人の教師が30人の生徒に対して指示を飛ばし、全員の足並みをある程度揃えさせながら、教科書での学習、ディスカッション、清掃、給食といった様々な活動を一日中行っています。

人数比(1 : 30)、足並みをそろえることに重きを置く点、知識の獲得のみならず生活習慣を教育する点、しかもこれらを一日中実行し続けるという点で、
他の多くの職業とは異なっています。

だからこそ、多人数に指示を飛ばすノウハウは教育現場の教員が優れたものを持っており、これを吸収することは多くの社会人にとって意義深いことでしょう。

本書は、中学校の教員が著した、学級経営を指南する名著です。

筆者は「ショート・ホームルーム10の原則」の「見通しをもたせる」という章で次のように説きます。

 朝の会にしても終わりの会にしても、ショート・ホームルームの最大の目的は「見通しをもたせる」ということです。朝の会なら今日一日の見通しをもたせること、帰りの会なら明日の見通しをもたせることが最も大切なのです。
(中略)
 朝の会にも終わりの会にも、必ず「先生のお話」というコーナーがあるはずです。朝の会では今日一日をどのように過ごしてほしいのか、帰りの会では明日一日はどんな一日になるのか、学級担任が自分の言葉で、自分のキャラクターを活かしながら語り続けることが大切です。こうした取り組みを毎日続けていくことによって、生徒たちに「聞く姿勢」を作っていくのです。

凡そ会社組織であれば、「朝の会」や「終わりの会」があると思います。それは月次定例という名前かもしれませんし、今期方針説明と呼ばれるものかもしれません。
そこで、「先生」は「見通しをもたせる」ことができているでしょうか。
何を言いたいのか掴めない、意図が見えない、そうした「朝の会」はここで述べられていることが実践できていないのかもしれません。

また、筆者は、生徒の素顔を観察する「素行評価の原理」として、次のように説明しています。

 授業で発言している生徒は、自分が指名されて頑張って発言しています。なんとか自分の考えていることをわかりやすく説明しようと、思考をフル回転させています。そうした生徒の姿を見ることは、教師にとって一つの喜びです。
 しかし、数十人の学級の生徒たちのうち、発言している生徒はたった一人です。もしもこのとき、発言している生徒だけに注目してしまっているとしたら、それはずいぶんともったいない話なのではないでしょうか。
(中略)このとき、他の生徒達、すなわちその発言を聞いている側の生徒たちこそが、実は色々な表情を見せているのです。
 ある生徒は席の少し離れた生徒に向けて手紙を書いているかもしれません。ある生徒はどうしても朝読書の続きが読みたくて、机の下で本を開いているかもしれません。ある生徒は窓の外を眺めながら給食のメニューは何だったかなと考えているかもしれません。もちろん、多くの生徒達は発言者の意見を聞き漏らすまいと、真剣に耳を傾けていることでしょう。
 いずれにせよ、こうしたとき、実は緊張状態にない周りの生徒たちにこそ、彼らの「素(す)の状態」が表れているのです。教師にとって、これほどの生徒理解のチャンスはありません。しかも、こうした場面は日常的に、しかも日に何度も訪れるのです。

……「教師」「生徒」を「先輩」「後輩」や、「リーダー」「メンバー」に読み替えればどんな仕事にも通じる話に見えてこないでしょうか。
同僚が自説を述べているとき、他のメンバーたちが瞬きせずにじっと聞き入っていたとしたら他者の意見をまずは聞いて受け止めてみるという文化がそのプロジェクトには根付いていることでしょう。一方で、同じシチュエーションでメンバーたちが各自でノートPCを開いてカタカタと内職をしていたらどうでしょうか。
同僚の内心や人間関係を推し量る技術として有効なのです。

さらに、次の箇所に至ってはもう完全にビジネス本として読めます。「リーダー育成10の原則」の「指導より感化の意識をもたせる」からの引用です。

 小学校時代からそのように指導されてきているからか、それとも担任教師をモデルにしてきたからか、リーダー性の高い生徒たちは一般に、他の生徒を指導することによって学級をまとめなければならない、というイメージを抱いて中学校に上がってくるようです。それが様々な場面でトラブルを招きます。
 能力的に低くてしっかりと取り組めない生徒、当番活動中にもおしゃべりに花が咲く生徒、中の良い友達が他学級にいるために給食当番なのになかなか教室に戻ってこない生徒、などなど、学級にはいろいろな生徒たちがいます。リーダー性が高いと言われる生徒たちには、こうした生徒たちを一方的に責めることによって改善させようとする傾向が見られます。これがトラブルを招きます。賞罰によって登板活動や係活動を動かそうとするのも、こうした生徒たちの特徴です。
 リーダーには指導力よりは感化力のほうが大切であるという話を、まずはリーダー生徒たちにじっくりと話して聞かせることが必要になります。

きっといい先生で、いい学級なんだろうなあ。そんなふうに思わせてくれる一節です。

本記事では割愛しましたが、「職場の人間関係10の原則」の章には誰にでも当てはまる人間関係の基礎が記されていますし、「通知表所見10の原則」の章はマネージャーであれば部下への評価フィードバックに応用できるかもしれません。
本書は本来は教員向けの書籍ですが、生徒であった頃のことを思い出しつつ普段の仕事に活かせる洞察を多く得られる楽しい書籍でした。

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